2017年1月1日日曜日

『わがしごと』 wagashi asobi・著

開業資金100万円
たった2人で起業した小さな和菓子店が
創業5年で本を出版‼
創業秘話と信念・志に打たれる一冊

全国には何校ものお菓子の専門学校があり、
毎年たくさんの和菓子職人の卵が、
アツイ夢を抱えて就職しています。

しかし…
「思っていた仕事と違う」
「思っていた処遇と違う」など、
様々な理由で挫折し、
離職、退職しています。

実際、
スタッフの同級生で、
和菓子業界からいなくなってしまった人が、
半数以上いるという!

「こんなクソみたいな会社、辞めてやる!」
と思った和菓子職人さん。
辞める前に是非読んでほしい。

自分の店を持つ、
ということの生きた事例がここにあります。

著者は「wagashi asobi」となっていて、
稲葉さん、浅野さん、2人の共著扱いですが、
文章を読めば、ほぼ稲葉基大さんの
処女作といっても言い過ぎではないと思います。

稲葉さんは1973年生まれで、
私と3歳しか変わらず同世代です。

宮内庁御用の老舗「とらや」さんに20年勤務。
うち6年間をニューヨーク支店で過ごしています。

職歴は一見派手ですが、偶然のご縁に導かれてのこと。
P.89からのプロフィールを読んでいただきたいのですが、
両親が和菓子屋でもなく、
大学に進むほど成績優秀でもなく、
高卒で就職されたと書かれています。

とらやを志望したのも、
初任給が高めで休みも多く、朝が早いと書いていなかった
と、それほど積極的な動機ではありません。

入社したものの、最初の2年は稲葉さん曰く
「あんみつ屋さんの厨房」
寒天を切ったり、あんみつを盛ったりするような、バイトでもできる仕事なんて、人生を賭けて勤める仕事じゃない
と、いつ辞めても不思議のない精神状態でした。

3年目にやっと生菓子作りにかかわる部署に配属されるものの、
「忙しく伝票に追いかけ回される状況」
に疲弊して、前向きになれない青年でした。

ニューヨーク支店への異動希望の動機も、
「本場のヒップホップカルチャーを見てみたいなぁ」
という軽い気持ちからと書かれています。

ここまでは、この青年が和菓子職人として
全国から注目を集めるなんて微塵も感じさせません。
ニューヨークでの6年間の経験が、
彼の「意識」に革命を起こすのです。

詳しくは本書に譲りますが、
和菓子職人として人生を賭ける
不退転の決意が稲葉さんを別人のように変えてゆきます。

稲葉さんの知的好奇心とその探求は、
他の和菓子職人を圧倒するほどです。

P.28の「五行思想と和菓子」で、
亥の子餅を題材に五行思想を解説されていますが、
とやらの中山圭子さんの著書を超えるほどの情報量。
私は初めて知ることも多く、圧倒されました。

P.170「菓銘 あお」の解説。
桜をイメージしたピンク色の干菓子に「あお」の菓銘。
その由来を聞いたお客様が、どれほど感動したか…
是非、本書で由来を確かめてください。

P.110から、MBAの博士課程のような「戦略論」「マーケティング論」「マネジメント論」を、自己資金100万円、スタッフ2名で、独立起業するためにどう生かしたがが、具体的に書かれています。稲葉さんは高卒の仮面をかぶったMBAホルダーです。学歴があてにならないとは、こういう人のことだと思います。そして、学歴なんて気にしなくていいんだとも強く思います。

「わがしごと」が仕事の哲学書として優れているのは、
コトノハ出版の針谷さんの編集が素晴らしいから。
稲葉さんと針谷さんは中学の先輩・後輩という間柄。
そして、針谷さんは秋元康さんや小山薫堂さんの
仕事術の著書編集を手掛けられているのです。
この動画、大好きで何回も見ています。

また、稲葉さんはただの菓子職人ではなく、
詩人でもあり、音楽好きでもあります。

その時々の気持ちを率直に綴った詩と、
大好きな音楽と、美味しいお茶とお菓子。
これを絶え間なくツイッターでつぶやいています。
「らしさ」が溢れています。
https://twitter.com/wagashiasobi

「和菓子屋」としてのwagashi asobiには
・ドライフルーツの羊羹
・ハーブの落雁
の2品しかありません。

しかし、オーダーメイドを引き受けたり、
イベントで実演したりするwagasi asobiのお菓子は、
無制限であり、無限です。

稲葉さんも浅野さんも、
人並み以上の技術をお持ちですが、
創作の上では技巧に走りすぎず、
古典を大切にしつつ、
今生きる職人として「新しさ」を
シンプルに表現することを信条とされているようです。

また、菓子には銘があり、
銘には物語があることも大切にされています。

小さな資金でたった2人で始めた和菓子店に、
多くのお客様だけでなく、
和菓子職人も心を打たれ、励まされています。
私は私らしい「らしさ」を、
不退転の決意て磨き続けるつもりです。

同世代ですし、
いつか一緒にお菓子が作りたいです。

【文責 宮澤 啓】

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