2016年9月28日水曜日

『亀屋伊織の仕事』 山田和市・著 

400年続く京都の老舗を後継する
18代目若旦那の瑞々しいエッセイ

著者で干菓子職人の山田和市さんは、
1971年生まれで私とほぼ同い年です。

干菓子専門の老舗和菓子店の長男に生まれ、
自分が後継しないと400年の歴史の火が消える。

職業選択の自由がない宿命に
反発した時もあったかもしれません。
しかし、自ら「亀屋伊織」の歴史を学ぶ中で、
その暖簾の重みを深く理解してゆく様子が、
文章からにじみ出ています。

亀屋伊織さんだけでなく、
京都の老舗が次々と消えた大事件を
ふたつ例に挙げて下さっています。

「蛤御門の変」と「東京遷都」

長州藩が起こした戦乱によって、
京都の大半が焼け野原になったと言われています。

また、焼け野原からやっと復興した矢先に、
政治と文化の中心が東京へ移ってしまいます。

それまでの庇護者を失った老舗の苦労は計り知れず、
亀屋伊織さんも例外ではありません。

現存する当時の広告コピー。
そのあまりの必死さは、
どんなことをしてでも、
どうにかして家業を守り抜こうとする
曽祖父たちのの想いが溢れています。

また、家業を守ったのは、
菓子職人のご先祖様だけでなく、
画家の今尾景年さん、
道具商の松岡嘉右衛門さんはじめ、
多くのお客様の支えがあってのことと
感謝された後の文章が素晴らしいです。

P.85 代を新しくするごとに受け継がれていくものは、単に菓子作りの技術だけでなく、まさにこのような歴史そのものだと思うのであります。

また、伊織さんの干菓子の魅力を語った文章にも感嘆しました。

P.93 私どものお菓子は仕事場で完成するものではないと考えております。(中略)私共の手を離れたお菓子が、それぞれのお席で私どもの想いをこえて育んでいただける(以下略)

副題にもなっている「相変わらずの菓子」。
菓子の種類や取り合わせは、長い歴史の中で、
磨かれ、研ぎ澄まされたものです。

斬新な新作に挑戦することは極めて稀で、
毎日の仕事は同じことの繰り返し、
「相変わらず」になります。
それがなぜ飽きないのか?

P.101 絶えず巡ってくる季節はいつも新鮮そのもので、私たちの気持ちもその都度新しくなります。私ども作りと手と、お客様が、お茶という目的のなかで同じ時代、同じ季節を共有している以上、「相変わらず」は古びることがないと思っているのであります。

写真も豊富で見ているだけで楽しく
干菓子の四季が学べる構成になっています。
瑞々しい文章からは、
先人の歴史を謙虚に学ぶ姿勢と、
同じ仕事を繰り返す職人仕事の中に、
絶えず新鮮さを見出す感性に、
心からの敬意を感じました。

私も和菓子に関わるものとして、
和市さんと語り合えるような職人になりたいものです。

【文責 宮澤 啓】

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