2014年12月17日水曜日

『あん』 ドリアン助川・著

12月からの半年間、
毎朝3時、4時には起きて仕事を始めます。

あん玉をきり、大粒の苺を丁寧に包みあげたり、
あたたかい羽二重餅でくるんだり。

「ラジオ深夜便」を聞きながらの和菓子作り。
そんな中「著者に聞きたい本のツボ」というコーナーで、
ドリアン助川さんが登場。
著書への思いを熱く語っていました。

「あん」

どらやき屋を舞台に、
「生きる意味をあえて問う」
作品を書いたつもりだと語っていました。

その1か月後、地元紙に著者のインタビュー記事。

この作品に魂を込めるために、
製菓専門学校に通い詰め、資格を得たこと。

32冊目の著書である本書が、
「生涯の一冊、代表作」
という想いで書かれていることを知ります。

物語のあらすじは、
ポプラ社のサイトをご覧いただくとして、
私が一番胸にしみたのは、
徳江さんが「あん」を炊き上げる描写です。

物語に命を吹き込むためには、
「あん」炊きの描写に、
徳江さんの人生の輝きまでも、
映し出すように表現しなければなりません。

P27~P38にかけての、
千太郎が初めて徳江さんのあん炊きを
目の当たりにする描写に圧倒されました。

リアルで緻密でありながら、
「小豆の声」なき声を感じながら炊き上げる、
詩的で抒情的な描写が散りばめられ、
レシピ本とはまったく違う魅力を放つのです。

その「あん」を千太郎がはじめて食べるシーン。

 暖かさの残る粒あんを、焼きたてのふっくらとした皮で挟む。好きな者なら顔の緩む瞬間だ。
 徳江に一礼して、千太郎は口に持っていく。
 途端、香りが鼻を包み、頭の裏へと抜けていった。
 業務用のあんとはまったく違う、生きた小豆の香りだ。縦に弾むように香りが跳ねている。それでいて奥があった。千太郎の頬の内側に澄んだ甘みが広がっていく。

「縦に弾むように香りが跳ねている」
「それでいて奥があった」
あんの美味しさをこのように表現した文章に、
私は初めて出会いました。

私自身、「あん」を美味しく炊くことを業とし、
それを文章で伝えたいと、
何度も何度も文章を書き続けていますが、
こんな美しく、おいしそうな表現があったのかと、
感動しました。

徳江さんの人生を輝かせるために、
著者が人生をかけて磨き上げた文章で、
「あん」の魅力が描かれてゆきます。

その『あん』は映画化が決定しました!

助川さんが川瀬監督に映画化を熱望して実現。
すでに撮影も終えているようで、今から6月の公開が楽しみです。

登場人物のひとり、
どら春の千太郎は高崎出身の設定。

私も高崎であん炊きに情熱を注ぐ職人の一人として、
徳江さんが人生を捧げた大切なものを、
少しでも次代に伝える懸け橋になりたいものです。

生きる意味とは・・・
故郷ゆかりの偉人、内村鑑三さんの、
ユーモアたっぷりの講演録にも通じる人生観だと感じました。

「勇ましい高尚たる生涯」に心からの感謝を。

【文責 宮澤 啓】

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