2014年10月19日日曜日

『和菓子』 中村肇・著

日本文化の魅力を「和菓子」を通して再発見
京菓子の美を追い求めた著者の7年間の集大成

表紙からして、息をのむ程美しい和菓子の写真ですが、
ページをめくるたびにため息がでる美しさです。

しかも、すべての写真が自然の光で撮影された、
というのには驚きを通り越して感動しました。

春夏秋冬、日差しにも色があり、強弱もあります。
自然の光が、和菓子の季節感と見事に融合した写真は、
その季節、その瞬間にしか撮ることができません。

また、京菓子の季節変化は大変早く、
昨日あったお菓子が、今日もあるとは限らないし、
去年あったから、今年もあるとは限らないわけです。

さらに、菓子は季節だけでなく、
職人により変化します。
それぞれの美意識が、
様々な表現でお菓子に映し出されるのです。

その瞬間瞬間を、それぞれのお店で調査しようと思ったら、
莫大な手間・時間・お金がかかります。
それをすべて中村さんに代行して頂いたとすれば、
この本の書籍代など、本当に安いと思います。

お菓子のカット写真については、
賛否両論あるようですが、
私はカットして初めて理解できる世界を拝見できて嬉しいです。

特に、あんこの色がお店によって違うことや、
菓子の表面的な美しさだけでなく、
切らなければ気が付かない内側にまで、
色彩の配慮がされているものもあり、驚きました。

素晴らしい本を作って下さって本当に有難うございます。
読むたびに、和菓子の魅力を再認識し、
背筋の伸びる1冊です。

【文責 宮澤 啓】

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2014年10月16日木曜日

『和菓子 夢のかたち』 中山圭子・著

東京藝大卒業後、虎屋文庫にて展示企画や資料整理、研究に携わる著者が、
和菓子の魅力を素敵なイラストとともに紹介する瑞々しいエッセイ

虎屋文庫の野上さんの本を紹介したら、
中山さんの本を紹介しないわけにはいきません。

たくさんの著作の中から最初のご紹介は、
『和菓子 夢のかたち』

理由は、私が初めて買った中山さんの本だからです。

中山さんの本は、
和菓子の研究者として側面から、
論文っぽい内容のご著書が多いです。

しかし、この本は本当に瑞々しい「エッセイ」。
中山さんが、なぜ和菓子と出会い、
その魅力の虜になっていったのか、
エピソードが豊富です。

また、疑問がわいたときの行動力が半端ではありません。
P.132「南蛮菓子あれこれ」では、
南蛮菓子の企画展の準備をすすめるうちに、
どうしてもポルトガルに行ってみたい衝動を抑えきれず、
現地へ取材旅行に出かけてしまうのです!

取材の詳細は本書に譲りますが、
目的のお菓子を買いまくって、
手荷物がお菓子でパンパンの状態で
ロンドン・ヒースロー空港で飛行機乗り換え時のエピソード。

ちょうど厳戒態勢の警備の中、
手荷物を入念に確認されてしまいます。

あやしいモノが入っている訳でなないので安心していると、
機内の熱気で一部のお菓子が溶けだしていたのです。

「これはナンダ!!」と尋問される場面は、
中山さんの他のどの本にも登場しえない、
エッセイ本ならではの微笑ましいエピソードでした。

また、阿部真由美さんのイラストが本当に素敵です!!
お菓子への慈しみを感じます。
しかも美味しそうです。
見てください、このういろう製の胡蝶。
ふっくらとして、優しい色合いで、
愛おしいんですけど、食べちゃうんですよね。
本当に「食べる芸術」だとイラストからも伝わります。

中山さんの文章も、いつもよりはとても身近で優しく、
阿部さんのイラストと相まって、
和やかに癒される和菓子本です。

【文責 宮澤 啓】

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2014年10月15日水曜日

『しばわんこの和のこころ2 -四季の喜び-』 川浦良枝・著



きっかけはこの一冊だった。

これは、私がこの職業に就くきっかけになった本。
最初に読んだのは中学1年生の時だった。
全く新しい環境、他の学校から来た
同級生たちに囲まれて、人見知りだった私は
なかなかクラスに馴染めなかった。
だけど1人でいるのは寂しくて、時間を持て余してしまう。
そんな時、せっせと図書館に通っては
いろいろな本を借りて退屈を紛らわせていた。
長い長い外国のファンタジーを借りて空想の世界に
浸ったり、好きだった動物のノンフィクションの物語に
感動したり、時には子供向けの英単語の辞書を
眺めたりもしていた。
そんな時出会ったのが、この『しばわんこ』シリーズ。
やわらかな曲線で描かれた挿絵と、
暖かな語り口に惹かれて、
図書館に本が返却されるのを待っては
続きを読むのを楽しみにするようになった。

日本の文化や生活様式、心のあり方などを
主人公である”しばわんこ”の日常に取り入れながら
紹介しているのがこの本の特徴なのだが、
その中で和菓子のことが紹介されているのが
この二冊目である本書。
”和菓子の思い出”というお話の中で、しばわんこを
含む登場人物たちが和菓子作りを体験する。
その様子がとても楽しそうで、
また出てくる和菓子もすごく綺麗で
何度も読み返すうちに”自分も和菓子を作ってみたい”
と思うようになった。
そして次の年、先生に頼み込んで
学校の許可範囲ではなかった高崎市の
和菓子店、『六郎』さんでの職場体験を実現してもらい
その思いは確かなものとなった。
この本のおかげで今の自分はあり、
この本と出会わなければ私はまったく別の人生を
歩んでいたかもしれない。

この本の存在に私はとても感謝している。
今、和菓子や日本の文化に少しでも興味がある人は
ぜひこの本を読んでみて欲しい。
そこから同じように和菓子の道を志す人が
現れたら大変嬉しく思う。


【文責 加部 さや】


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2014年10月13日月曜日

『和菓子さろん』 野上千之・著

虎屋一筋53年!
虎屋450年の歴史と3500種類の菓子について、
後世に伝えるべき要点をまとめた集大成の書

著者の野上さんは昭和18年、
戦争真っ只中に虎屋に入店されています。
以来、戦中、戦災、復興を、
虎屋とともに歩まれた方です。

肩書は「前・虎屋文庫長」となっていますが、
戦中戦後の製造部から始まり、
販売・庶務・流通・新工場建設委員長・
社長室・京都支配人とものすごい経歴です。

職人、店員、マネージャーと、
和菓子の製造小売りに関わる
あらゆる仕事を成し遂げた方です。

要は、職人として自ら作れる方が、
虎屋の貴重な歴史的文献と10年間も
真剣に向き合ったうえで書かれた1冊なのです。

あとがきの中で、なぜこの本を書こうと思われたのか、
というお話があります。

その理由のひとつはお菓子の「菓銘」。
葡萄型のお菓子に「葡萄」という菓銘は、
特に茶席菓子の場合、とても野暮です。

菓銘を聞いてなんだろうと疑問を持ち、
由来や背景を説明して納得いただくのが
茶菓子の世界です。

その菓銘、
虎屋さんだけで3200種類もあり、
そのほとんどが、
背景、由来、歴史について、
何ら説明がなかったことから、
その分類、解説を試みたのが、
本書執筆の原点だったそうです。

本書の中から、私がもっとも影響を受けたのが
「岡太夫」
という菓銘の和菓子です。

実は、「岡太夫」は「蕨餅」(わらびもち)です。
なぜ岡太夫が蕨餅なのかは、
本書をお読みいただくとして、
私が注目したのは、
「名菓の消滅」と題した最終章です。
著書より一部抜粋します。

P288 せっかく古くより継承されてきた蕨粉を使用した本来の蕨餅が、今消滅の寸前にある。
 菓子業界としても、この伝統ある名菓をなんとかして後世に残し伝えゆく責任があると思う。

私自身は、この一文に心打たれて、
本物の「わらびもち」を後世に残したい!
と決意を固めるきっかけとなりました。

私にとっては、和菓子職人としての
生き方を変える程、影響を受けた1冊です。

【文責 宮澤 啓】

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2014年10月12日日曜日

『和菓子の美』 10人の名匠による技

10人の名匠が次世代に伝えたい和菓子とは

全国和菓子協会・専務理事の藪光生さんが、
全国の菓匠の中から選びに選び抜いた10人の中に、
高崎の和菓子職人がいます。

「鉢の木 七冨久」石川久行さん。
この本は、石川さんから直接買い求めました。

ということで、今日は地元の和菓子職人しか知りえない、
石川久行さんのお人なりをご紹介しながら書評させて頂きます。

思い起こせば20年前。
菓匠京山での修業を終え故郷に帰りました。
25歳。
当時は微笑庵ではなく「みやざわ製菓」。
看板商品は「上州の田舎っぺ」。

そんな私にとって、
創業初代から三代にわたって、
天皇・皇后両陛下に生菓子を献上した和菓子店、
「鉢の木 七冨久」さんは雲の上の存在でした。

「どんな方があの素晴らしいお菓子を作っているんだろう?」
そんな方から、思ってもいないお誘いを受けるのです。

「和菓子職人の有志を募って
勉強会を始めるんだけど宮澤くんも来ない?」

『高崎菓子倶楽部』は平成8年7月に発足しました。
毎月1回、テーマを決めて集まります。
ただの親睦会と違うのは、必ず「宿題」があったところです。

平成9年5月に、テーマ「水羊羹」で集まりました。
その時の記録と写真がありますので紹介します。

【基本配合は同じで寒天を変えると食感はどう変わるか?】
・糸寒天、角寒天(宮澤)
・釜一番(石川)
・テレット(風間)
・ウルトラ寒天(清水)
・大和(山本)
【砂糖を変えると風味はどう変わるか?】
・トレハ2割(富樫)
・和三盆糖2割(小倉)
・塩少量(富澤)

このように、理科の実験のように科学的で地道な勉強会でした。
17年前、みやざわ製菓にて。みんな若い(笑)。

仲間の工場で交代で実施したのも新鮮でした。
だって、小規模零細とはいえ、なんとなくライバル心もあり、
それぞれの作業場は秘密にしておきたい気持ちもあったと思います。

以来、20年近くお付き合いさせて頂いていますが、
いつも謙虚であり、勤勉であり、よく働きます。

組合活動では会長職を歴任していますが、
自店のことを顧みないほど、
組合や地域への貢献を第一に行動されます。

菓子職人としても、ひとりの男性としても、
未だに憧れもし、尊敬しています。

そんな石川さん渾身の12品の中から、
代表する1作品だけ選ぶとしたらコチラ。
『水とり・水』
まずもって、今回の10人の名匠の中に、
石川さんのお師匠様のお店「塩芳軒」さんが含まれています。

塩芳軒さんで学んだ菓子を大切にしていればしている程、
究極の12品がかぶってしまうと思うのですが、
「後世に残したい120品」
という書籍の趣旨を考えると、
他の方が作ったお菓子と同じものを作るわけにはいきません。

そんな石川さんの作品には、京菓子の良さと、
関東・江戸菓子の美意識が絶妙に相まって、
独自の菓子に昇華しています。

水鳥の意匠は、作り手の美意識そのものが出ます。
私の師・佐々木勝さんも、10人の1人として登場し、
「めじろ」を作っていますが、まったく意匠が違います。

さらに、水鳥に添えられた有平糖の水。
伝説の名人、高家謙次さん直伝の有平細工を、
京都や東京から遠く離れた高崎で、
大切に守っていらっしゃいます。

鉢の木七冨久に代々伝わる美意識と、
京菓子の美の融合を感じました。

本に掲載された美しい菓子ばかりではなく、
亡き母上の介護のお話しや、
大切な奥さまやお子様との話し、
献身的に働くスタッフさんとの悪戦苦闘などなど、
生身の人間としての苦悩や喜びも、
間近で拝見させて頂いています。

『生き様が菓子にでる。菓子は人なり。』
師匠の言葉とともに、
美しい本から、菓匠の積み重ねた努力や、
次代へ伝えたい想いまで伝わってくる熱い一冊でした。

【文責 宮澤 啓】

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