2014年8月27日水曜日

『春夏秋冬 森の中にある小さな工房の和菓子レシピ』 渡辺麻里・著


自然豊かな森の湧き水で作られた
和菓子はどんな味がするんだろう。

どんな食べ物も、料理する際の水で
味が変わると聞いたことがある。
ご飯を炊くときも、味噌汁を作るときも、
はたまた野菜の煮物をするときだってそう。
おいしい水で作られた料理の美味しさは格別
だというのだ。

普段の生活では料理でも、お菓子でも、
作る際に使うのは普通の水道水だ。
いつも変わらない、綺麗に浄化された人口の水。
たとえどこか違う場所に行ったとしても
蛇口をひねればほとんど同じ水が出てくる。
それで作ったお菓子はやはりどこか同じ味に、
言ってしまえば個性のない味に
なってしまっているのかもしれない。

均一に整えられた水で作るお菓子と、
森の滋養を含んだ水で作られたお菓子。
この2つだったら、私は後者を食べてみたいと思う。

本書p8の『寒天』はまさしく水の味で
変わってくると言えるお菓子だろう。
普段は寒天だけを固めたお菓子を作ることは
あまりないけれど、この本の著者である
渡辺さんの住む北海道のニセコの森で取れた
水で作る寒天ならば、きっとそれだけでとても
贅沢なお菓子になるに違いない。

それから『水ようかん(p20)』も大変
水分量の多いお菓子で、その大部分を占める
あんこは小豆から練り上げるまでに
たくさんの水を必要とする。
美味しい水で作られた餡を、またその水と寒天で
固めたお菓子。水を食べていると言っても
過言ではないだろう。
抹茶の水ようかんも、ここらで食べる
抹茶のお菓子とは一味違ってくるのではないだろうか。

p80には枝豆あんとミニトマトのコンポートを
使った『水まんじゅう』も紹介されている。
枝豆もミニトマトも、ニセコで育ち、収穫されたものを
使っているということで、水まんじゅうの生地との相性も
とても良さそうだ。

著者の渡辺さんの営む和菓子工房「松風」は、
月に一度販売会も開催されているそう。
北海道へ行った際にはぜひ足を運び、
ニセコの森の湧き水で作られた
お菓子を頂いてみたいと思う。


【文責 加部 さや】


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渡辺麻里・著 成美堂出版



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2014年8月3日日曜日

『花雲水』 芝田清次・著

昭和33年、39歳で和菓子作りの経験ゼロで創業
昭和56年、62歳で全国百貨店和菓子売上の
一位、二位、三位を独占した、
「叶匠壽庵」創業者・芝田清次さんの半生記

本書は叶匠壽庵さんが人気絶頂の昭和60年に出版されました。
和菓子の関係者のみならず、
一般のお菓子ファンの方々まで、
「叶匠壽庵の成功の秘訣」
を知りたくて仕方がないタイミングです。

おそらく、多数の取材も受けていたことでしょう。
「あなたの成功の秘訣はなんですか?」

しかし、多くの読者の期待とは裏腹な序章から物語は始まるのです。
具体的なお話しは本編に譲りますが、
私なりの解釈では、以下の通りです。

「私が菓匠として経営者として、
至らないために、力不足のために、
実現できないことがいかに多い事か!
そんな痛み、悩み、苦しみを、
多くの方は理解して下さらない。
しかし私は、命ある限り、
自分のなすべきことが何かを探し、
挑戦し続ける覚悟です 」

要は、この本は成功者として語るのではなく、
挑戦者として語るんです、と序章で宣言されたのです。

知の泉がほとばしるような文章、
波乱万丈の人生に心底敬服して、
「生前に直接お話しを伺ってみたかった」
と思っていたところ、
父の本棚に講演会のビデオがあるではありませんか!

三脚もなく手撮りなので、見づらい動画ですが、
書籍に書かれていないことが語られていて貴重です。
その動画の中には、何かを必死で学ぼうとする、
若き日の父の姿もあります。

付箋を貼りながら再読したので、
前回読んだ時には気付かなかったこともたくさんありました。
特に、伊藤忠の越後正一社長との出会いから、
徐々にお客様が増え始め、
今までの生産体制では間に合わなくなる創業5年目。

最初の5年を支えた職人たちすべてを解雇し、
新人を一から育成するお話しや、
三顧の礼で拝み倒して職長として雇った職人を、
1年もせずに解雇したお話など、
今の自分の状況や心境と重なる部分もあり、
とても共感できました。

全編を貫くのは、深い教養と謙虚さと鋭い美意識です。
創作は鬼のように没頭し、
今までにない美しさで装い、
心からの謙虚さで接客応対を重ねます。

成功の秘訣は簡単にまねできるものではなく、
日頃の地道な精進の果てに、
かすかに見える希望です。

本書発行の時には、
日本を代表する名店に成長した叶匠壽庵さんでさえ、
バブル崩壊の時節には倒産の風評まで飛び出すのが、
商いの難しさだと思います。

『凡そ菓子職人として成就するには運不運というものにあらず』
から始まる「菓子の座一枚起請文」は、
和菓子職人の宝です。
折に触れて読み返したい大切な一冊です。

【文責 宮澤 啓】


余談ですが、本のタイトルにもなっていて、
以前は看板商品だった「花雲水」。
廃版は残念です。復刻を願っています。



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芝田清次・著 講談社



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