2014年5月23日金曜日

『四季の菓子』 岡部伊都子・著

人生を変えた本
本はただの活字ではない。人そのものだ。

全国の和菓子店を食べ歩き、選びに選んだ修行先「菓匠 京山」。
師匠の腕と人柄に惚れ込んで修行する仲間が当時10人いた。

兄弟弟子の間で話題になるのは「どの店と迷ったか?」だ。
皆、自分の選んだ店が日本一であることを確認したいのだ。
その中に「一幸庵」さんがたびたび話題に上った。

「なぜ一幸庵さんに行かなかったんですか?」
それは…
「あの店は感想文を書かせるから面倒で。」
というものだった。

私は感想文を書かせる本が何なのか、
気になって仕方がなくなっていた。

そうなると居ても立ってもいられず、
他店で修行を始めたばかりなのに、一幸庵さんに向かっていた。

一幸庵の水上力さん
(画像は「松屋銀座」様HPより)

「佐々木さんのところで修行中かい。
 いいお店で働けてあなたは幸せだ。
 さぁ、中へいらっしゃい。」


水上さんは、初対面の私をいきなり工房へ招き入れて下さった。
「ウワサの本はこれだよ。
 もう絶版だから書店には売っていないんだ。
 良かったら貸してあげるけど読むかい?」

岡部伊都子先生 直筆サインの入った大切な本

私なんかがお借りして良いんだろうかと戸惑いながら、
むさぼるように読ませていただいた。

「本来の菓子、伝承としての、
 文化としての菓子の味を大切に考え直したい」
という編集長の意向をくんだ岡部さんの文章は、
和菓子職人として迷いの多い新人の私に、
進むべき道を照して下さるようでした。

P.34「みかさ」
 いつつくられたのかわからない品ではなく、
ふうわりと焼かれたぬくみが手にうつる、
焼きたてのみかさを得るよろこびは大きい。

P.60「わらび餅」
 「わらび餅」とはためくのぼり。
けれどいまはほとんどが
「わらび餅」という名の「くず餅」。
くずにはくずのよろしさがあるが、
やはり「ほんま(ほんと)のわらび餅」を
手厚くつくっている店は、素通りできない。

P.153「やさしい味」
 できたてのきんとんを食べるなんて機会はそうはありません。
でも、作るお人から言えば、お刺身と同じように、
すぐに口にしてほしいそうです。
すぐに……が無理ならば、
せめてその日のうちにと。

私が和菓子職人として何を大切にするべきか。
岡部先生の語りかけるような文章と、
それをご紹介下さった水上さんのお人柄に心を打たれました。

素晴らしい本と出合ったものの、
借り物だし、絶版ゆえ、
私は全ページをコピーして本を手作りし、
水上さんにお返ししました。

以来、水上さんは20年以上にわたり、
「文化」としての菓子の魅力を私に伝えて下さる、
大切な師匠の一人となりました。

コピーした『四季の菓子』を、
「座右の書」というタイトルで、
微笑庵のホームページに掲載しました。
(残念ながら、「座右の書」の記事はHPリニューアルの折に消えてしまいました。)

なんと、その記事を読まれた方から、
「私が持っているより、微笑庵さんが持っている方が本にとっては幸せでしょうから」
と絶版の本をプレゼント頂くことになるのです。

そんなある日、京都のお医者様から
「あなたの作ったお菓子を食べさせたい人がいるから送って欲しい」
という注文をお受けしました。

京都にお菓子をお送りしたところ、すぐにお電話がありました。
なんと岡部伊都子先生ご本人です!
(画像は「立命館大学国際平和ミュージアム」HPより)

「京都には素晴らしい和菓子屋さんがたくさんありますが、
 あなたのお菓子は、そのどのお店にも負けないほど素晴らしいものでした。
 ありがとう。」

私は、体中の毛穴がすべて開いてしまったかと思うくらい、
汗も涙も止まりませんでした。
嬉しいのは当たり前ですが、
その言葉にふさわしい和菓子職人でありたいと願う緊張感にも同時に襲われました。

2006年、藤原書店さんから「遺言のつもりで」をご出版された折、
岡部先生のお世話になった方々へのお礼のお菓子を、
すべて微笑庵でご用意させていただく機会を得ました。


わたくしどもより、相応しいお店や、素晴らしい職人さんが、
日本中にいることは重々承知しておりましたが、
ご信頼に応えるべく、精一杯ご用意させて頂きました。

2008年の4月、岡部先生はお亡くなりになりましたが、
岡部先生の『四季の菓子』に描かれている、
本来あるべき菓子
伝承するべき菓子
文化としての菓子
を、私は生涯追い求めてゆくつもりです。

本はただの活字ではない。
本は人そのものだと、この経験から私は確信しています。

【文責 宮澤 啓】

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岡部伊都子・著 読売新聞社



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2014年5月22日木曜日

『新味和風デザート和風菓子-甘味の世界を拡げる』 大田忠道・著



おやつではない、デザートとしての和菓子。
そんな新しい立ち位置の和菓子を
発見させてくれたのがこの本。
日本料理の料理人であり、
フジテレビ「料理の達人」にも出演された
大田忠道さんが著者の、
日本料理の観点から作られた
食事の後のデザートとしての
和菓子を紹介したのが本書だ。

普段、和菓子の世界で働いていると
つい和菓子はお茶請けとしての存在で、
料理のデザートとはかけ離れたものとして
認識してしまいがちだ。
確かに、和菓子としてぱっと思い浮かべるものといえば
まんじゅう、大福、練切など
どれも菓子としての存在感が大きく
なかなか食事の後のデザートには思い当たらない。

しかし、この表題の通り、甘味の世界は
ここまで拡がるのかと思うほど、
見たことも考えたこともなかった
デザートとしての和菓子の数々に
私は仰天した。

この中で実際に作ってみたいと
思った数品を紹介させていただく。

”トマトのトマト”は、本当に丸のままの
トマトと見紛うほど、
見た目はトマトそっくりのデザートだ。
材料にはこれまた和菓子では
あまり用いられない
トマトジュースやトマトのピューレが
使われていて、
さらにはトマト嫌いの人でも
食べられるというから
ますますその味が気になってしまう。

”日向夏ゼリー寄せ”は、日が夏に向かう
今の時期にピッタリの涼やかなもので、
ゼリー寄せという料理での手法も
材料が果物になれば途端に
一皿のデザートへと変化する。
このゼリーがゼラチンでなく、寒天や
水饅頭ならばどうなるだろうと
和菓子づくりの血が騒ぐ。

そして最近人気のある、
種子島産の安納芋を使った
”安納いものロールケーキ”
洋菓子のようでありながら和の素材を
使うことでしっかりと
和風のデザートになっている一品。
安納芋は焼くと大変甘くなり、
ねっとりとしたクリームのような食感になるそうで、
それを生クリームに混ぜたら
どちらの美味しさも引き立てられ、
最高のデザートになるのではないだろうか。
安納芋の出回る季節になったら
ぜひ作りたい。

おやつやお茶請けとして様々な人に
親しまれてきた和菓子。
それが料理のデザートとなることで
また新たな魅力が生まれている。
どんな材料で、どんな形になるのか。
和菓子の可能性は無限大だ。

【文責 加部 さや】


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大田忠道・著 旭屋出版MOOK



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