2013年10月4日金曜日

『3つの生地でつくる 和菓子のおやつ』 中島久枝・著



”つくって、食べて、楽しんで”
そんな言葉から始まるこの本を読んだ時、
私はどこか懐かしさを感じた。

思い出したのは、幼い頃の記憶。
生まれも育ちも群馬県である私の家では、
よく郷土料理の”すいとん”が作られていた。
群馬県人なら何度か食べたことがあると思う。
私は何故か昔からこの料理が大好きだった。
すいとんといえば小麦粉を水で溶かして
野菜を煮込んだ汁に加えるという方法が一般的だが、
私の家では小麦粉を固く練って
団子のようにすることが多かった。
力強く練った小麦粉のみのすいとん生地が出来上がると、
母はいつも私たち兄弟を呼んだ。
私たちはそれを待ってましたとばかりに台所へ行き、
こねあがったばかりのすいとん生地を粘土のようにして
様々な形を作った。
動物や綺麗な花の形を作る姉。
奇想天外な謎の塊をいくつも生み出す兄。
そんな兄弟たちの影響を受けて、私も様々な形を作った。
ただの白い塊が手を加えることで
色々なものに変わる。
それが楽しくてたまらなかった。
もちろん食べるのが一番の楽しみであったのは
言うまでもない。

この本にはそんな作る楽しみ、
食べる楽しみが詰まっている。
大福や団子などの餅、どら焼き、白玉の三種類に
分けられたレシピには、
写真を見るだけで食べてみたい、
作ってみたいというような気持ちが湧き上がる。

”うさぎのあんず大福”は、
名前の通り可愛いうさぎがこちらを見ている。
中には干したあんずを混ぜた粒餡。
ひとくち食べるごとにうさぎの顔は消えていくが、
大福の表す柔らかな曲線がいつまでも
うさぎの余韻を残してくれる。

”アールグレイといちごのどら焼き”
これは名前と見た目のギャップが面白い。
どら焼きと聞けば、普通はこんがりした茶色の丸い
焼き菓子を思い浮かべる。
しかしこれは紅茶の茶葉を混ぜたどら焼き生地を、
クレープのように薄く焼いて
いちごとチーズを挟んでいるという具合。
和菓子であるのに、洋菓子の見た目を持った
このお菓子に、食べる人は皆ワクワクした気持ちに
なることだろう。

最後は”バジルとアーモンドの白玉おかき”
白玉粉を使うのは白玉団子だけではなかった。
著者の中島さんは白玉団子のイメージが強い白玉粉を、
イタリアの風味漂うおかきへと変身させたのだ。
バジルとオリーブオイルを使うという
今までのおせんべいなどからは想像もつかない
斬新なお菓子。
新しいものを作っていく楽しみが
このおかきに込められている。

日々の生活では時間に追われ、
つい作る楽しみや自分の作ったものを食べる
楽しみを忘れがちだ。
そんな時、この本を手にとって
忘れかけている”楽しさ”を
思い出してみてはどうだろうか。


【文責 加部 さや】


----------------



『3つの生地でつくる 和菓子のおやつ』
中島久枝・著 東京地図出版株式会社



----------------

2013年10月3日木曜日

『和菓子とわたし』 金塚晴子・著

金塚晴子さんは、1997年の作家デビュー以来、
家庭で作れる和菓子の教科書的な
レシピ本の執筆を重ねられました。
その数15冊!
この分野では圧倒的です。

執筆、教室、テレビ出演を重ねる中で、
金塚さんのレシピは、
より美味しく、美しく、失敗を少なく
する工夫を重ね、磨き続けられています。

そんな金塚さんの本の中で、
唯一レシピの一つもない本がコチラ。
金塚さんの創作活動の源泉を
文章から拝見することが出来る貴重な一冊です。

「茶席菓子を作ることに」(P.14)からは、
10個の注文のために、20個も30個も作っては、
その中からきれいなものだけを選んで届ける、
という金塚さんの菓子作りへの姿勢が伺えます。

おそらく、国民的大ヒットを生み出し続けた、
音楽ディレクター時代の仕事への姿勢、こだわりが、
和菓子作りでも生き続けているのだと思います。

「和菓子スタジオへちまの誕生」(P.26)からは、
「へちま」の誕生秘話とともに、
処女作「ほーむめいど和菓子」
の誕生秘話も紹介されています。

最初の本が世に出たのは、
説明できない様な偶然だったかもしれませんが、
その後のご活躍を拝見するに、
よくぞ金塚さんをデビューさせて下さった!
と文化出版局の担当編集者の方には、
心からの拍手をお送りしたい!!

「お茶と羊羹と本と」(P.74)では、
和菓子店での本格的な修行経験がない金塚さんを、
支え、勇気づけているもののひとつは
「本」
だということをしみじみと感じるエピソードです。
おそらく、金塚さんほど新刊から古典に至るまで、
和菓子の本に親しんでいる方は少ないと思います。

平成3年に300円で出版された「羊羹百話」を、
神田の古書店で4,000円で購入したエピソードは、
後日、小城羊羹の村岡社長との対談で、
社内の語り草となるエピソードとなっています。

文章、語り口は、大変穏やかで、
やさしい気持ちになりますが、
掲載写真は、焼印ひとつとっても完璧で、
プロとしての厳しい美意識で編纂されています。

金塚さんの一連の創作活動の源泉を
この本から感じることが出来ました。
レシピ本もいいけど、随筆も良いものですね。

【文責 宮澤 啓】


----------------



『和菓子とわたし』
金塚晴子・著 淡交社



----------------