2013年11月26日火曜日

『季節を楽しむ和菓子12か月』 おもたせ菓子研究室・著



私は豆大福が大好きだ。
和菓子の中で一番と言っても
過言ではないだろう。
そこで今回選ばせていただいたのが
こちら。

『贈り物にしたい 季節を楽しむ和菓子12か月』は、
”おもたせ菓子研究室”のお二人が
手塩にかけて作り上げた
豆大福を表紙にした
私の理想とも言える本だ。
作り方から手順の細かい写真、
さらにはラッピングされたものまで載っている。

ラッピングはどれも、作った人の
思いや性格まで見えてきそうな
温かみを感じるもの。
手書きで書かれたラベルも
包まれたお菓子の美味しさをさらに
引き立たせるようだ。

ひと月に二種類ずつ紹介された
和菓子の中で、私が特に素敵だと思ったのは
”黒豆大福”に加え、
”きみしぐれ(蝶々)””枝豆餅”の3つ。

”黒豆大福”は、一般的な豆大福と違い
大粒の黒豆を使っている。
さらにはそれを餅生地に混ぜるのではなく、
生地に載せるようにして
餡を包餡しているのだ。
そのようにして作られた生地からは
黒豆が程よく透けて見えて
思わず手を伸ばしたくなる。

”きみしぐれ(蝶々)”は、
今まで見たことのないそぼろ状になったもの。
綺麗な黄色に、今にもほろほろと崩れそうな
黄身餡が春の野に一面に咲く
菜の花を思わせる。
そこにちょこんと乗った蝶々が
春らしさを強調して、食べるのが
もったいなくなるような可愛らしさだ。

”枝豆餅”は、淡い緑色の餅の中に
枝豆と砂糖だけで作られた枝豆餡が
たっぷりと包まれている。
きっとこれを手に持てばやわらかい餅の食感越しに
ずっしりとした重さが伝わってくるのではないだろうか。
枝豆の出回る時期にしか
作れないこのお菓子。
一度これを食べれば、次の年からは
夏が待ち遠しくなることだろう。

これらのお菓子は、”おもたせ菓子研究室”の
お二人が主催するお菓子教室で
作ることが出来るそう。
ぜひ一度、こちらにお邪魔して
お二人とお話をしてみたいものだ。

【文責 加部 さや】


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おもたせ菓子研究室・著 家の光協会



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2013年11月20日水曜日

『和菓子』 NHK「美の壺」制作班・編集




和菓子の魅力を三つの切り口で
映像(DVD)と合わせることで魅力が倍増

本当に、本当に不思議なご縁で、
海外で和菓子の紹介をする講師を引き受けました。

まったく和菓子を知らない外国の方に
『和菓子とは何か』を実演しながら説明せねばなりません。

私の持ち時間は1時間。
何を伝えるべきか?

何十冊も和菓子の本を読みこむ中で、
切り口の鋭さに脱帽したのが本書です。

何が凄いって、和菓子の魅力をたった三点に絞ったことです。

さらに、放送(DVD)を通して、
インタビューした職人の肉声や手技、
高橋美鈴アナの卓越したナレーションを楽しむことが出来ます。

類書で紹介済みのこともありますが、
本書で初めて知ったこともありました。

P.42 「菓子が季節を連れてくる」の水無月の説明。

菓銘の通り六月だけに登場するこの菓子の由来のひとつは、
『氷室から切り出した氷を模した』
このことは知識として知ってはいました。

しかし「氷室から氷を切り出し献上する道中の映像」は初めて見ました!

文献で紹介されていたことは真実だった、
そして今でも脈々と受け継がれているんだとわかり、感動しました。

水無月の例だけでなく、
和菓子の歴史を知る上で貴重な文献の原本の映像も、
本書の内容に深みを与えています。

本書は、映像(DVD)と併せて読むことで真価を発揮します。
両方楽しまれることをお勧めします。

【文責 宮澤 啓】

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NHK「美の壺」制作班・編



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本書の中で、個人的に「お宝」となっている一文があります。
追記にその一文と理由をご紹介します。


2013年10月4日金曜日

『3つの生地でつくる 和菓子のおやつ』 中島久枝・著



”つくって、食べて、楽しんで”
そんな言葉から始まるこの本を読んだ時、
私はどこか懐かしさを感じた。

思い出したのは、幼い頃の記憶。
生まれも育ちも群馬県である私の家では、
よく郷土料理の”すいとん”が作られていた。
群馬県人なら何度か食べたことがあると思う。
私は何故か昔からこの料理が大好きだった。
すいとんといえば小麦粉を水で溶かして
野菜を煮込んだ汁に加えるという方法が一般的だが、
私の家では小麦粉を固く練って
団子のようにすることが多かった。
力強く練った小麦粉のみのすいとん生地が出来上がると、
母はいつも私たち兄弟を呼んだ。
私たちはそれを待ってましたとばかりに台所へ行き、
こねあがったばかりのすいとん生地を粘土のようにして
様々な形を作った。
動物や綺麗な花の形を作る姉。
奇想天外な謎の塊をいくつも生み出す兄。
そんな兄弟たちの影響を受けて、私も様々な形を作った。
ただの白い塊が手を加えることで
色々なものに変わる。
それが楽しくてたまらなかった。
もちろん食べるのが一番の楽しみであったのは
言うまでもない。

この本にはそんな作る楽しみ、
食べる楽しみが詰まっている。
大福や団子などの餅、どら焼き、白玉の三種類に
分けられたレシピには、
写真を見るだけで食べてみたい、
作ってみたいというような気持ちが湧き上がる。

”うさぎのあんず大福”は、
名前の通り可愛いうさぎがこちらを見ている。
中には干したあんずを混ぜた粒餡。
ひとくち食べるごとにうさぎの顔は消えていくが、
大福の表す柔らかな曲線がいつまでも
うさぎの余韻を残してくれる。

”アールグレイといちごのどら焼き”
これは名前と見た目のギャップが面白い。
どら焼きと聞けば、普通はこんがりした茶色の丸い
焼き菓子を思い浮かべる。
しかしこれは紅茶の茶葉を混ぜたどら焼き生地を、
クレープのように薄く焼いて
いちごとチーズを挟んでいるという具合。
和菓子であるのに、洋菓子の見た目を持った
このお菓子に、食べる人は皆ワクワクした気持ちに
なることだろう。

最後は”バジルとアーモンドの白玉おかき”
白玉粉を使うのは白玉団子だけではなかった。
著者の中島さんは白玉団子のイメージが強い白玉粉を、
イタリアの風味漂うおかきへと変身させたのだ。
バジルとオリーブオイルを使うという
今までのおせんべいなどからは想像もつかない
斬新なお菓子。
新しいものを作っていく楽しみが
このおかきに込められている。

日々の生活では時間に追われ、
つい作る楽しみや自分の作ったものを食べる
楽しみを忘れがちだ。
そんな時、この本を手にとって
忘れかけている”楽しさ”を
思い出してみてはどうだろうか。


【文責 加部 さや】


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『3つの生地でつくる 和菓子のおやつ』
中島久枝・著 東京地図出版株式会社



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2013年10月3日木曜日

『和菓子とわたし』 金塚晴子・著

金塚晴子さんは、1997年の作家デビュー以来、
家庭で作れる和菓子の教科書的な
レシピ本の執筆を重ねられました。
その数15冊!
この分野では圧倒的です。

執筆、教室、テレビ出演を重ねる中で、
金塚さんのレシピは、
より美味しく、美しく、失敗を少なく
する工夫を重ね、磨き続けられています。

そんな金塚さんの本の中で、
唯一レシピの一つもない本がコチラ。
金塚さんの創作活動の源泉を
文章から拝見することが出来る貴重な一冊です。

「茶席菓子を作ることに」(P.14)からは、
10個の注文のために、20個も30個も作っては、
その中からきれいなものだけを選んで届ける、
という金塚さんの菓子作りへの姿勢が伺えます。

おそらく、国民的大ヒットを生み出し続けた、
音楽ディレクター時代の仕事への姿勢、こだわりが、
和菓子作りでも生き続けているのだと思います。

「和菓子スタジオへちまの誕生」(P.26)からは、
「へちま」の誕生秘話とともに、
処女作「ほーむめいど和菓子」
の誕生秘話も紹介されています。

最初の本が世に出たのは、
説明できない様な偶然だったかもしれませんが、
その後のご活躍を拝見するに、
よくぞ金塚さんをデビューさせて下さった!
と文化出版局の担当編集者の方には、
心からの拍手をお送りしたい!!

「お茶と羊羹と本と」(P.74)では、
和菓子店での本格的な修行経験がない金塚さんを、
支え、勇気づけているもののひとつは
「本」
だということをしみじみと感じるエピソードです。
おそらく、金塚さんほど新刊から古典に至るまで、
和菓子の本に親しんでいる方は少ないと思います。

平成3年に300円で出版された「羊羹百話」を、
神田の古書店で4,000円で購入したエピソードは、
後日、小城羊羹の村岡社長との対談で、
社内の語り草となるエピソードとなっています。

文章、語り口は、大変穏やかで、
やさしい気持ちになりますが、
掲載写真は、焼印ひとつとっても完璧で、
プロとしての厳しい美意識で編纂されています。

金塚さんの一連の創作活動の源泉を
この本から感じることが出来ました。
レシピ本もいいけど、随筆も良いものですね。

【文責 宮澤 啓】


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『和菓子とわたし』
金塚晴子・著 淡交社



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2013年9月19日木曜日

『電子レンジとフードプロセッサーで和菓子ができる』 金塚 晴子・著


金塚さんの代表的な15作の2作目。

著作の表紙は、本文で使った写真から
お気に入りの一枚を選ぶことがほとんどですが、
この本に関しては、
表紙のためだけに別撮り!

紹介した数多くのお菓子の中から、
代表的な5品を
細長のお皿に縦一列で並べたこの表紙に
私自身も大きな影響を受けました。
撮影時に本書を青木カメラマンに
見せながら撮影したものです。

処女作「ほーむめいど和菓子」より
版が大きくなったこともあり、
写真集のように大きく美しい写真を
眺めるだけでも楽しい本です。

「和菓子がライフワーク」と公言する
随所にちりばめられていて、
単なるレシピ集だけでなく、
金塚さんの和菓子教室で、
授業を受けているようなライブ感を感じる
構成になっていて、
最後まで飽きさせません。

『目標は新鮮なスタンダード』
(P55)と目標を掲げていた時期だけに、
一般の菓子店ではあまり見かけないレシピも登場。
「レンズ豆とごまの茶巾絞り」
「れんこんの水まんじゅう」
「黒こしょう餅のカマンベールチーズ巻」
など、タイトルだけでちょっとドキドキします。

巻末には
「蒸かし豆を使った超簡単白あん」
などの裏ワザまで披露されていて、
金塚さんの魅力を
細部にわたって紹介する内容となっています。

失敗知らずの簡単さで、
職人さんに負けない美味しい和菓子が作れる!
手作りの和菓子で、
お友達をアッと驚かせよう!

本書の帯コピーそのままの本。
金塚さんが、その後、
テレビ出演や雑誌連載からひっぱりだこになる
ことを予感させる完成度です。

【文責 宮澤 啓】


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金塚 晴子・著 講談社



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2013年9月18日水曜日

『手作りの和菓子』 堀 正幸・著


金塚さんの最新刊の書評書きたいと思ってから
実際に書き始めるまで3か月もかかってしまいました。

金塚さんの書籍が、
出版された時の年齢、時代、出版社や制作スタッフによって、
どのように違うのかまで知りたくなってしまったのです。

金塚さんの本は、写真が豊富で、きれいで、
初心者や少量しか作らない家庭の主婦でも、
なるべく失敗の少ないレシピで、製法で、
美味しく作って欲しいという想いに溢れていて…
宝だと思います、和菓子界にとって。

そんな金塚さんを、音楽の世界から
和菓子の世界に導いたのは
「図書館で出会った一冊の本」
だと様々なところで書かれています。

その本はいったい何?

どこにもその書籍の名前は書かれていませんが、
東京製菓学校HPインタビューで、
「東京製菓学校の先生の著書を図書館で見たのが、
製菓学校への入学のきっかけでした」
とお答えになっています。

東京製菓学校HP「卒業生紹介」より

金塚さんは1987年卒ですから、
それより前に出版されている、東京製菓の先生の本は、
ズバリこの本だと思います。

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プロが教える茶の間の菓子・茶席の菓子
堀 正幸・著 婦女界出版社


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失礼を承知で正直に書かせて頂ければ、
もう30年も前の本ということもあり、
写真が少なく、文章は多く、
初心者の方には少し難しい印象はぬぐえません。

活字も古風な書体で、
まるでプロ向けの和菓子大全集
「新和菓子大系」
のような雰囲気、オーラがある本です。

堀先生の著書ならば、
の方が圧倒的に読みやすいし、
後世に読み継がれる名著だと思います。

しかし!です。
一見色気のないこの本に魅せられて、
金塚さんは和菓子の世界にいらっしゃった。

他のどの本にもない魅力、色気があるからに他なりません。
それは、ズバリ 「前文」 だと私は思います。
一部ご紹介させていただきます。



 お菓子はただ買って食べるだけでなく、自分の好みのものを楽しみながら作って食べることができたら、と考えたことはありませんか。四季折々の美しい和菓子が家庭で手軽に作れて、訪れたお客様をもてなすことが出来たら、他家への贈物に使えたら、どんなに楽しいだろうと考えたことはありませんか。
 また、来客や親しい方々とのお茶会の菓子は、自分で工夫して手ずから作ったものを差し上げるのが、本来は料理と同じく最良のおもてなしです。
 和菓子作りは決して難しいものではありません。今まで馴染がなかっただけのことですが、何事も始めが肝心です。基本を大切に守ればどなたにでも簡単に美味しく作れることを知っていただくためにこの本を作りました。



長年、和菓子店や製菓学校で
後進の指導に情熱を注がれた堀先生が、
ここまで自信を持って
「和菓子作りは決して難しくありません」
と断言されたら
和菓子が大好きだけど
作った経験のなかった方にとって
どれ程励みになったか、はかり知れません。

現在主流のレシピ本からみれば、
少し写真が少なかったり、白黒だったりで、
色気の少ない本に見えるかもしれませんが、
詳細に読みこむと違う景色が見えてきます。

特筆すべきは「こしあん」の製法解説。
家庭で作る量で、道具で、
驚くほど美しく、美味しそうなこしあんではないですか!
凄いです。

レシピの量も、
あんこの炊き方から始まって、
お饅頭、求肥、練切、そぼろ、
鹿の子、羊羹、外郎、葛、
焼き菓子、蒸し菓子から、
干菓子、半生菓子まで、
圧倒されるほど多彩です。

私から見たら眩しすぎるほどの才能の菓匠が、
「家庭で作れる和菓子」
のために全身全霊を傾けてつくられた本です。

家庭で和菓子作りに挑戦したい方から、
そのような方に和菓子を教える立場のプロの方にまで、
是非とも読んでいただきたい
読みごたえのある一冊だと思います。

【文責 宮澤 啓】

2013年9月12日木曜日

『季節をつくる わたしの和菓子帳』 金塚晴子・著


「菓子は人なり」
これは師・佐々木勝先生の口癖。
菓子はレシピで作るものではなく、
最終的には、その人の人柄、志が菓子にでる。

そんなこともあり、本を読むときは、
必ず著者プロフィールから、
お人柄を推察しつつ読んだりするわけです。

金塚さんの著者プロフィールを見ると
「レコード会社のディレクターとしてヒット曲の制作に携わる」
とあるのですが、具体的なことはあまり書かれていません。

意図的に秘密になさっているのかもしれませんが、
山口百恵さんの担当ディレクターだったはずです。
宇崎竜童さんとのエピソードも「へちま」さんのHPに
掲載されていた気がするのですが、
現在は見当たりません。
そこでちょっとだけ検索させて頂きました。

すると、山口百恵さんのスペシャル番組
「駆け抜けた青春」のゲストとして、
大物プロデューサー酒井政利さん、
ディレクター川瀬泰雄さん、
楽曲提供の宇崎竜童さん、阿木耀子さん、
などの超著名な方々とともにゲスト出演されていました。


百恵さんを陰日向に支え、
つねに良い意味で期待を裏切り、
期待を超える楽曲の提供で国民的大ブームを作り、
一時代を共に歩まれた方ではありませんか!

そんなディレクター時代を過ごされた金塚さんであれば、
ふとしたきっかけで飛び込んだ和菓子の世界においても、
注目し、応援する方がたくさんいたとしても、
まったく不思議ではありません。

製菓学校を卒業した直後にも関わらず、
ある料亭からデザート制作の依頼が入る、というエピソードも、
すべてはディレクター時代のご人徳と信頼の賜物と想像します。

「名のあるお店で買えばすむものを、あえて私に頼んで下さった」
その期待に応えるために、趣味で始めたはずの和菓子と
真剣に向き合い始めるのです。

代表的なエピソードは、
「10個の注文なのに20個も30個も作っては、
その中からきれいにできたものだけ選んでお持ちしていました。」

(「和菓子とわたし」より)


こんな真摯な仕事をされたら、心打たれないはずがありません。
評判は評判を呼び、ファンが次第に増えていったのも
自然なことだと思います。

業界の常識に縛られていないからこそ感じることのできる、
新鮮な視点を大切にした和菓子。
「スタンダードになり得て、しかも新鮮さのあるお菓子」
が当時の金塚さんの信条だったようです。

(「電子レンジとフードプロセッサーで和菓子ができる」より)


そんなお菓子作りに邁進し始めた金塚さんに、
今度はお菓子作りを教えて欲しい!
という依頼が舞い込むのです。

最初に頼み込んだのはご友人たち3人。
お菓子をお届けしていたお茶の先生の義妹さん、
そのお友達、その御親戚と、
ほんの数名でこじんまりと
「和菓子教室へちま」は始まりました。

その生徒さんから法事用のお菓子をお引き受けして、
そのお菓子が配られた中に本の編集者がタマタマいらしゃった。

「私、このお菓子を作った方の本を作りたい!」

そんな偶然から処女作「ほーむめいど和菓子」は誕生するのです。
金塚さんが和菓子の世界に飛び込んで10年程のことです。


出版された1997年、私は当時27歳。
和菓子に関する本は、基本的になんでも読むような本好きですが、
プロ向けの製法書は多数あったものの、
家庭でも、素人でも、本格的な和菓子が簡単に作れる!
というコンセプトの本は、読んだ覚えがなく、
衝撃を受けてすぐに購入したことを覚えています。

表紙の「花束」の煉切に、
金塚さんらしい意匠と色遣いが象徴されています。
また、単に作るだけでなく、
箱、ラッピング、紐にまで心配りがされた「贈るアイディア」は、
当時プロ向けのどんなレシピ本にもないものでした。

スタイリスト高橋さんの器の目利き、
日置さんの臨場感たっぷりの工程写真など、
今読み返しても新鮮さを失っていません。

また、古典的な定番菓子から、オリジナルな創作菓子まで、
レシピの種類の豊富さに圧倒されました。
しかも、仕事は丁寧で美しい。

この本をきっかけとして、
金塚さんの創作活動はたくさんの取材を受けることとなり、
和菓子教室の受講希望者も急増することに。

製菓学校で和菓子屋の跡取り息子くんたちが口々に、
「和菓子屋は夏はヒマでぶらぶらしている」というのを聞いて、
私も夏くらいへちまのように風に揺られてぶらぶらしたいな…
なんて由来で「へちま」を始めたのに、
金塚さんはへちまと正反対の盛況の中に身を置くこととなります。

「ほーむめいど和菓子」で発表した金塚さんの世界観に
いち早く注目したのはNHKさんでした。
2001年NHK教育テレビ「趣味悠々」で、
和菓子作りの楽しさ、魅力を伝える講師となるに至って、
金塚さんの人気と知名度は不動のものとなります。

本人の好む、好まざるとにかかわらず、
和菓子界を代表する職人の一人となったのです。

それから数々の雑誌、出版社から
和菓子作りの連載や書籍執筆の依頼が舞い込み、
それらに期待以上の誠実な仕事を重ね、
毎年1冊以上の超ハイペースで、
次々と新刊が刊行されるのです。
それはまるで涸れることのない泉のようです。

1997年に処女作を出版されてから2013年の現在に至るまで、
金塚さんの出版された書籍は15冊にものぼります。
(全集のような共著をのぞいて。)
この数は、和菓子関連のレシピ本著者の中で、
ダントツの一位だと思います。

教室での指導や、出版、テレビ出演を重ねる中で、
金塚さんの和菓子作りは磨きあげられていきます。

「家庭で、簡単に、失敗の少ない、手作りの和菓子」

その集大成ともいえる書籍が最新刊、
『季節をつくる わたしの和菓子帳』

もはや、処女作に見られるような
斬新さ、新鮮さは影をひそめています。
その代わり、もっと王道を行くレシピの構成です。
後世に残したい、伝統、歴史、物語のある菓子を、
毎月1品、カレンダーのように紹介するのです。

簡単に、失敗が少なく作ることはできるけども、
もっと良く作ろうと思えば、奥が深く、
上達の喜びを感じる難しさも持っている。

斬新な創作よりも、先人が育んだ和菓子の歴史的背景に
敬意を払うような文章が、素直に心に響き、胸を打ちます。

金塚さんの和菓子作りが洗練されたように、
スタイリストの高橋さんの器選びも、
日置さんの美しい写真も、
処女作から15年の時を経て、
当時と違う魅力を、
静寂の中の美とでも表現したいような、
穏やかな中にも力強い美しさを放っています。

この本は、歴史に裏打ちされた伝統的な和菓子を、
自分の手で、10個程度の少量で、失敗なく作りたい!
そんな和菓子ファンの座右の書となる珠玉の一冊です。

何らかの事情で、正誤表を入れざるを得なかったことは、
製作スタッフにとっては悔やまれることかもしれませんが、
そのおかげで、読者は金塚さんの息吹を感じるQ&Aを
たくさん読むことができました。

この本の制作に係わった全ての方々に
心からの敬意と感謝の気持ちを捧げます。

【文責 宮澤 啓】


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金塚晴子・著 東京書籍


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2013年7月31日水曜日

『スーパー・パティシエ 辻口博啓の新味和菓子』 辻口博啓・著



辻口博啓さんといえば、言わずと知れた洋菓子の名匠だ。

しかし今回の本を手にするまで、辻口さんの
ご実家が和菓子屋で、一度は閉めること
になってしまったお店を再び辻口さんが
再開されたことは知らなかった。
この方は洋菓子のプロであるのと同時に、
その心の中には和菓子の確かな感性も
備わっているのだろう。

先日、図書館で書評させていただく本を探していたのだが、
そこには洋菓子のレシピ本が大半で、
それより少ない和菓子の本は難しいものや
分かりづらいものが多かった。
そんな中、シンプルな装丁と簡潔な
題名のこの本が目に入った。

『スーパー・パティシエ 辻口博啓の新味和菓子』。
パティシエである辻口さんがつくる和菓子とは
どんなものだろう。
新味和菓子とはどういうことだろう。
そんなふうに考えながら表紙を開けば、
そこには見慣れたお菓子の名前が並んでいた。
どら焼き、ねりきり、水ようかん…。
どれも和菓子では定番のものばかり。
しかし、辻口さんの手によって生み出された
それらは全く新しいものだった。

特に驚いたのは『ゆずとマンゴーの水ようかん』。
水ようかんと聞いて思い浮かぶのは
やはりこし餡を使ったものや、
抹茶や桜など和の素材を使ったもの。
しかしこれにはゆずパウダーと
マンゴーのピューレが入っている。
和菓子を作る者では想像もつかない
その組み合わせに脱帽した。

それからすこしの工夫でこんなにも変わるのか
と目を見張る思いだったのが、この本の
ハイビスカス』『ジャスミン』『ローズ』の
三種類のねりきり。
見た目は確かに和菓子の技術を使った
ねりきりなのだけれど、
中にはそれぞれの花を使ったゼリーが包まれているのだ。
モチーフの形を再現するということは
和菓子ではよくあることなのに、
このようにゼリーを加えて香りまで
付けるというのは考えたこともなかった。

”変わらないとは変化し続けることだ”
とはどこかで聞いた誰かの言葉。
このように和菓子以外の様々なお菓子が
全盛となっている今、
新しい色を取り込んだ、それでいて
変わらないものはしっかりと残っている、
そんなお菓子が
人々から必要とされているのかもしれない。


【文責 加部 さや】


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辻口博啓・著 ソニー・マガジンズ



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2013年6月27日木曜日

『日菓のしごと 京の和菓子帖』 日菓・著


京菓子は宮中行事や茶道など
高貴な方々の雅な食文化として発展してきました

意匠は絵図帳に記録されて
300年以上脈々と受け継がれ、磨かれ
現在もなお作り続けられています

中山圭子著 江戸時代の和菓子デザインより

菓銘は単なる名前にとどまらず
1000年以上前の和歌などに起因するものも多数あり
菓銘を聞いただけで
秘められた和歌を想起するのが
和菓子を供される雅人の教養とされていました

高貴な京菓子を
デザイナーの視点から
日本文化を代表する「食べられる芸術」
という視点で編纂された写真集が
『和の菓子』

この本に感動して和菓子の世界に飛び込んだ
2人の女性和菓子職人の創作活動が
日菓さんの原点だという

しかし、和菓子が高貴な方だけの
密やかな楽しみではあまりにももったいない

普通の庶民でも、
子供でも、女子高生でも、お年寄りでも、
見て美しく、食べておいしい
日常の楽しみの一つになって欲しい

そんな想いが日菓さんのお菓子から感じられるのです
でも、単に斬新だったり、
カジュアルだったりするのではなく、
あくまでも京菓子の伝統と技法を用いて表現しています

日菓さんが創作した80点の作品の中から
たった1点だけ紹介するとしたら
『アポロ』

膨大な手間暇をかけすぎたら
それは芸術かもしれないけど菓子でなはい

これ、京菓子だなって思いました
シンプルで抽象的な意匠に
旬の菓銘を添えることで
召し上がる方に無限の広がりを感じてだく

自分はとても真似できない感性のお二人に
和菓子の新しい可能性と楽しさを教えて頂いた一冊
今後のご活躍もとても楽しみです

日菓さんのHP
 
あまりにも可愛らしい

日菓さん紹介記事
Vantan FJapon アイカーブ2008

そうだ 京都、行こう。 京の人に聞きました

朝日放送 LIFE ~夢のカタチ~
http://asahi.co.jp/life/backnum/130330.html



日菓さんの存在は、恥ずかしながら知らなかったのですが
調べているうちに
注目の女性和菓子職人はまだいることが判明

和菓子店 青洋 青山洋子さん
http://wagasiseiyou.petit.cc/banana/

青山さんも単に和菓子の仕事に邁進するに飽き足らず
「個展」を通して作品を発表したり
和菓子作りの講師をやられてりしています

特に錦玉の色遣いが絶妙で心を奪われます

色を喰らう展
http://bizarre-kyoto.cocolog-nifty.com/blog/2011/02/post-3220.html

COCON烏丸 リレーコラム Vol.48
http://www.coconkarasuma.com/column/column48.html

episteme 日本の美を求めて Vol.6
http://episteme-net.jp/column2/epiism/vol06.html



日菓さんにしろ、青山さんにしろ
京菓子の技術と教養が基礎にあってこその創作活動です
その根幹を教育された方は
老松の太田達さん
GUCCI オフィシャルブログ
京菓子司 太田達さんと和菓子を作る
http://ameblo.jp/guccijp/entry-11380866097.html
※GUCCIのブログだけあって写真も動画も超高品質

数寄者と評されるほどの
茶人であり文化人でもある太田さんが
日菓さんと青山さんの「技」と「心」のパトロンだ

特に日菓さんほどの人気和菓子ユニットを
「老松」に抱え込まず自由に活動させ
新刊の著者プロフィールにも
ひとことも「老松」を名乗らせない

京菓子文化の新しい扉を開くために
あえてそうしているのだと思いますが
人としての器の大きさに圧倒されます

日菓さんの新刊を通して
青山さんや太田さんに出会えたことにも
本当にありがたいことと感謝いたします

【文責 宮澤 啓】

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『日菓のしごと 京の和菓子帖』
日菓(内田美奈子+杉山早陽子) ・著 青幻舎


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同じ女性和菓子職人としてスタートを切ったばかりの
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2013年6月20日木曜日

『まっちんのおやつ』 町野仁英・著


まっちんとの出会いは2006年
妻と雑貨屋さんでお買い物中だった


大橋歩さんの素敵な季刊誌「Arne」
その中に和菓子が表紙の15号を発見
中を見ると…


雑穀豊富なオリジナリティー溢れる桜餅が
たくさんの写真で臨場感たっぷりに紹介されていました
一応和菓子業界に身を置く者としてだれか気になる…


「まっちん」って誰!?

私が日ごろ読んでいる業界紙などにはまったく登場しない青年
沖縄の製糖工場で働いたり
サトウキビを刈る仕事をしたり
アイガモ農法の生産者のお手伝いなどを重ねる中で
正統派の和菓子修業とはまったくちがう
大地や農業に感謝をささげるような菓子を独学で作り始めたという

参照:伊賀タウン情報「和菓子に夢 自宅に店開く」

まっちんより腕が立つ職人はたくさんいると思う
でも大橋歩さんがArneに登場させた唯一の和菓子職人は
他のだれでもない「まっちん」ただひとり
村上春樹さんや大貫妙子さんと同じステージに彼はいる

大橋さんが紹介した「わらびもち」をつくるまっちん
この記事に私はどれほど勇気づけられたかわからない

私自身もわらびもちが大好きだったが
自分で作ろうとチャレンジしたことはなかった

小石川の菓匠のわらびもちが大好きだった
他店で修行中の弟子でもない私を
仕事場に招き入れては和菓子に賭ける情熱を語って下さった

冬でも汗だくでわらびもちを煉るその仕事ぶりは
ちょっと神々しく見えた
あり得ないほどやわらかいわらび餅とこしあんの絶妙な調和
自分なんかには作れないんじゃないかと思っていた

そんな気持ちの時にこの記事に出会った
素人さんのような家庭の道具でわずかな量を作っている
しかも誰から教わったわけでもなく独学で!

2006年、私自身も覚悟が決まりわらびもちを作り始めた
長年憧れ、食べ続けてきた想いを込めて


2010年、愛読しているCafeSweets誌に
まっちんが再び登場しているのを発見


まっちんは「招聘」されていた!
(そう記事に書いてある)
全国にあまたいる和菓子職人のうち
「招聘」される方がいったい何人いるだろうか?


そして2013年 まっちんは出版した!
ゼロから独立起業してたったの10年、37歳の若さで

本書の特徴の一つは「写真」だと思う
農家の台所で撮影したような「ほの暗さ」が
まっちんの菓子の雰囲気と良く合っている
同時期に刊行された「日菓」さんの写真と比べると
その違いが鮮明になる

一番心を打ったのは「粒あん」に添えられた文章
あんこ作りを独学していたころ
たくさんの本を見て、たくさん試しました。
でもあるときから本をみるより
「もっと豆をみないといかん」と思ったのです。

まさにその通りなんです。
本に書いてあるレシピは音楽でいえば楽譜
演奏する者の技量と志が
菓子の質を決めるんだと思う

農業や農家の皆さんへのあたたかい想い
大地への感謝を捧げるような菓子が
まっちんの菓子

またまっちんを支えたサポーター
「チームまっちん」の存在も素晴らしい
武骨で不器用そうな彼を出版にまで導いたのは
彼の魅力+チームまっちんの真摯な応援だと思う

少しだけリクエストがあるとすれば
・レシピ本にしては工程写真が少ない
・Arneで表紙を飾った雑穀でつくる桜餅がいない

読むたびに背中を押してくれる、心あたたまる一冊です

【文責 宮澤 啓】

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町野仁英・著 WAVE出版


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